音楽文化の振興に必要な要素について

音楽文化

将来立ち上げる事業について考えを巡らせていると、「なぜそれをやるのか」という部分を深堀りして考えなければいけないことを痛感する。そこがぶれると、進むべき方向に進むための判断が運営の中でできなくなり、遅かれ早かれ事業が空中分解するだろう。

そういった意味では、「地元で良質な音楽が生まれるような素地を作る」ということが、私の目的の一つだと感じる。

そう考えたとき、「では良質な音楽が生まれるような素地づくり(=将来的な音楽文化の発展)に必要な要素とは何か」という部分が重要となる。これがそのまま私が行うべき事業の答えになり得るからである。

今回はこの点について今の自分の考えを記したい。なお、事業検討に関する過去の記事は次のとおりである。

“良質な音楽”とは

そもそも良質な音楽とは何なのか。自分なりの答えとしては、「新鮮で心が奪われる音楽」である。

新鮮とは、これまでなかったサウンドやアプローチ、コンセプトを持っているということだ。誰かの後追いや焼き回しのような音楽は魅力的には映らないだろう。

また、心が奪われるとはそのままの意味であるが、この部分にはアーティストの演奏技術と音楽に関する素養の深さが直結すると思われる。やはり演奏の上手なアーティストであれば、聴き手を曲のグルーヴや世界観に引きずり込んだり、聴き手の心を晴らしたり、涙を誘ったりすることができるだろう。また、音楽に関する素養の深さがあれば「ここではこの音を使う」「ここではあえて低音のパートを外す」「ここでのビブラートは1音半揺らす」など、聴き手の心を奪う手法をセンス良く選択できたり、場合によっては編み出したりできるだろう。

ちなみに「音楽」については、ジャンルは問わない。ロック、ジャズ、フュージョン、ヒップホップ、テクノ、レゲエ、クラシック、能などの伝統音楽…何でも良い、全てが対象である。

さて、そのような音楽が生まれるには何が必要だろうか。

必要な要素

優秀なアーティスト

当然だが音楽を生み出すアーティストが必要である。そしてそのアーティスト達が素地づくりの起点となるはずである。ただし上述のとおり、心を奪ってくれるような音楽を生み出すアーティストであるためには、確かな演奏技術と素養の深さが必要だと思う。

このようなアーティストの研鑽のためには、以下のようなものの整備が良いのではないかと考えられる。

教育機関を整備する

教育機関と書くと少しおおげさだが、要は音楽理論や技術について学んだり先輩からアドバイスを受けられるような場を提供するものだ。こういった意味では、私が事業として考えている楽器教室も趣旨に合致するだろう。

基金を運用する

直接的ではないが、アーティストの活動の応援のための基金があっても良いかもしれない。音源製作費やライブ・ツアー敢行の費用、コーチングを受けるような場合の費用について、基金から金銭的な支援を行うのだ。これによって、アーティストが自分の時間を他の稼業で潰すといったことが減り、本来の音楽活動に注力することができるだろう。

もちろんオーディションなどによって支援の対象を選抜すこととは必要だと思う。

消費者

音楽を生み出すのはアーティストであるが、それにお金を投じるのは聴き手である消費者だ。消費者は以下の2つの点で必要だと思う。

1点目は音楽市場への資金の投入だ。まず、生み出した音楽が聴き手からお金を集められるかは、アーティストにとって文字どおり死活問題だ。また、資金不足で活動できなくなるアーティストが増えれば、それに伴ってライブ会場やイベントの運営会社、CDなどの小売業やその他サービス業など、音楽を取り巻く業界全体が縮小してしまう。

2点目はアーティストが生み出した音楽へのジャッジである。良いのか悪いのか、刺さるのか刺さらないのか、そういったもののアーティストへのフィードバックという意味でも、より多くの聴き手が存在する必要があると思うのだ。また、例えば大衆受けはしない音楽でも一定数のファンがいれば、そのアーティストも活動を続けることができる。これは、結果として音楽の多様性を支えてくれることになるだろう。

上記のような消費者を増やすためには、次のようなことが考えられると思う。

外部の地域に働きかける

母数を増やすという意味で、海外などの外部地域に売り込みをかけることが有効だと思う。これは私が常々重要だと思っている部分だ。

今の時代では音楽や動画のコンテンツを簡単に全世界に流せるし、外国語の自動変換も容易いため、海外にアプローチすることのハードルは高くないはずである。また、日本の音楽に興味を持っている人が多い国や、新しいサウンドに飢えている人が多い国があるはずなので、そういったエリアに積極的にアプローチすることで、ファンや資本の獲得につながると思う。

音楽を体で味わう場を提供する

コンサートホールやライブハウス、クラブ、音響にこだわった喫茶店など、しっかりとした音質で音楽を味わうことができる場があると良いと思う。これは、良い環境で音楽を聴くことの素晴らしさを知っている人を増やすという観点からだ。ギターアンプから出る音の艶感や生々しさ、図太いキックで心拍数が持っていかれそうになる感覚、オーディオでの再生なのにまるで目の前で演奏されているかのような感覚などは、良い環境の中で体全身で音を味わわないと得られないだろう。こういった体験をしたことがある人は、その感覚を求めて音楽が聴ける場に通うことになると思うのだ。

多様な音楽が集う場

音楽は閉鎖的な環境では発展しないと考えている。新しいものは必ず既存のものの要素の組み合わせであるからだ。そして、多様な音楽が集う場があれば、アーティスト側も聴き手(消費者)側も、自分の中の音楽の知見を押し広げることができる。これによって、アーティスト側は音楽の制作や演奏におけるアプローチの幅が広がるだろうし、聴き手側はより自分好みの音楽を探し当てることができるようになったり、より良い音楽を嗅ぎ分けることができるようになってくるだろう。これらは全て「良質な音楽が生まれる素地づくり」に直結する要素だ。

そんな多様な音楽が集う場としては、地域のCDショップやレコードショップ、フェスなどの音楽イベント、色々な音楽をかけてくれる喫茶店やバーが考えられると思う。

また、この要素に関しては次の2つも考えられるが、それぞれ留意が必要だと感じている。

Youtubeやストリーミングサービスについて

Youtubeやストリーミングサービスではありとあらゆる楽曲を聴くことができる。だが、楽曲に辿り着くためには基本的に「検索」が必要である。この「検索」という工程によって、自分が無関心のジャンルや知らないジャンルの音楽とめぐり合う可能性がかなり減ってしまう。

(とはいえ、自分も音楽をざっと聴くときはYoutubeに頼りっぱなしである。)

テレビについて

テレビで取り上げられる音楽については大衆受けする(した)ものが多いため、インディー界隈の音楽や実験的な音楽はあまり取り上げられない。もちろん現在のシーンを追うという目的では有用かもしれないが、様々な音楽を聴くという観点からは、あまりお勧めはできないと思う。

まとめ

必要な要素を大きくまとめると、アーティストが活動するための環境整備と、良い聴き手を増加させるためのアプローチ、そして総体的な音楽の質の向上のため、多様な音楽が集う場の確保である。記事を書くためにもやもやと考えているとすぐに時間が経ってしまった。

良質な音楽が生まれるための要素としては、もっと他にも重要なものがあるかもしれない。今の私には思いつかないが、もしこの記事をご覧になって「こういうのもあるのでは」と思った方は、是非コメントなどで考えを残してもらいたい。

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