近年のアメリカと日本のアナログレコード市場

レコード

最近PioneerのPLX-500というレコードプレーヤーを買った。

これまでレコードで音楽を聴く機会はほとんどなかった。高校や大学時代はCDを買うかレンタルするかだったし、数年前からはSpotifyやYoutubeMusicなどのストリーミングサービスを利用して聴くことも多くなった。ただ、過去に好きなバンド(plenty)がLPレコード盤で音源をリリースしたことが周りで話題になったことなどもあり、レコードについては興味を持っていた。そして最近、買ってみようかなとふと思い立ち、購入に至ったわけである。

プレーヤーを買うにあたってレコードについても色々調べていたのだが、近年急激にレコード市場が拡大していることが分かった。今回はレコード市場の情勢について調べたことを書き残したい。

用語について

アナログレコードについては、LP(エル・ピー)レコードやvinyl(ヴァイナル)など様々な呼ばれ方があると感じるが、一般的には全て同じイメージで使われているはずだ。厳密な違いとしては以下のとおりとなる。

  • アナログレコード …音源をデジタルデータではなくアナログ信号のまま記録した円盤状のメディア。一般的にはレコード盤や単にレコードと呼ばれることも多い。
  • LPレコード …直径12インチのアナログレコードのことで、33回転で片面約30分収録できる。長時間収録できることからLP(Long Play)と呼ばれる。レコードとして一般的にイメージされる大きさである。
  • vinyl …ビニール製のアナログレコード。アナログレコードが開発された当初はシェラックという天然樹脂を用いられた、SPレコードと呼ばれるものだった。ビニール製のアナログレコードが開発されると、もろくて音質的にも劣ると言われたSPレコードに取って代わるかたちで普及した。vinylは海外で一般的に使われるレコードの呼び方である。

以降、この記事内では単にレコードと表記したい。

アメリカのレコード市場

2020年、アメリカでのレコード売り上げによる収益がCDを上回った。以下はRIAA(アメリカレコード協会 https://www.riaa.com)が公開している統計データである。

グラフのとおり、1980年後半以降はCDが台頭しているが、レコードの収益は2010年頃から徐々に増加し、2020年から2022年頃にはコロナ禍もあって急増している。また、アメリカでのフィジカル音源の売り上げ全体も、レコードの売り上げ増加に伴って増加に転じている。

なお、ここでは詳しく触れないが、ストリーミングによる収益は2022年時点でレコードの7~8倍以上にまで拡大している。アメリカではあくまでストリーミングが主流であることに変わりはないようだ。

日本のレコード市場

日本でも、近年レコードの生産量は増加している。以下はそれぞれ一般社団法人日本レコード(https://www.riaj.or.jp/)が公表している統計情報をもとにして作成したグラフである。以下の上段のグラフは国内におけるレコードの生産実績の推移であるが、2021年以降では、1990年代のレコードブームのピークを越える生産量となっている。下段のグラフは、CDとレコードのそれぞれの生産量を示したものである。これを見ると、国内ではCDと比較するとレコードの生産量自体はまだまだ少ないことが分かる。

また、以下のグラフは国内における音楽メディアの生産・配信実績の推移である。青色の「オーディオレコード」がCDやレコードなどのフィジカル音源である。海外に比べ、日本の市場ではストリーミングの市場がそこまで成長しておらず、依然としてCDが大きな割合を占めていることが分かる。

ただし、これらの統計値に含まれない中古品なども考慮すると、レコード市場が活性化している様子がさらに示されるのかもしれない。

レコード・ストア・デイ(RSD)について

このように盛り上がりを見せるレコード市場だが、このムーブメントを生み出した一因であろう要素として、レコード・ストア・デイ(RSD)の存在がある。

レコード・ストア・デイとは、アメリカ国内の約1,400店舗の個人経営レコード店と世界中の数千の同様の店舗を取り巻く独特な文化を祝い、広める方法として、2007年にアメリカで始まったものである。レコード・ストア・デイは毎年4月の第3土曜日とされており、この日には様々なレコード店やアーティストによって特別なイベントが開催されたり特別盤がリリースされたりする。2008年4月に第1回が開催されてから、その動きは日本を含め世界中に広まっているのだ。

日本では2011年から正式に参加しており、毎年レコード・ストア・デイで限定品販売などのイベントを開催していったようである。現在は東洋化成株式会社のもとで運営が続けられている。

レコード店をはじめとしたレコードを愛する人々と、それに共鳴したアーティストによって支えられているレコード・ストア・デイは、引き続きレコード市場の拡大とレコード文化の発展に寄与していくだろう。

なぜ若者の間で流行っているのか

近年レコードを購入しているのは、アメリカでも日本でも若者の世代であるらしい。上記以外に要因として考えられることを挙げてみる。

レコードを聴くことを新しい体験として楽しんでいる

これはネット上の様々な記事で言及されているが、レコードで音楽を聴く体験自体に楽しさを感じているようだ。レコードに針を落とす動作以外にも、ジャケットを持った感覚やライナーノーツを読む時間なども体験に含まれているのだろう。レコードプレーヤーの売れ線は比較的安いモデルであるようなので、「音質にこだわって」というより、純粋にレコードで聴くことの新鮮さを求めているというものだ。

アーティストを応援している

Youtubeやストリーミングサービスによってほぼ無料で大抵の音楽が聴ける現代で、あえてレコードなどのフィジカル音源を買う理由として、アーティストの応援もあるだろう。また、他のアーティスト関連のグッズと同様にコレクションとして購入することも考えられる。レコードの大きなジャケットは部屋に飾っておくのにも良さそうだ。

例えば世界的に人気を博しているK-POPでも、BTSやBLACKPINKなどのアーティストがレコードをリリースしている。これまでレコードを手にしたことがなかった層がレコードを入手するといった事例も増えているのだろう。

シティポップリバイバルの影響

山下達郎や竹内まりや、松原みきなど、70~80年代のシティポップが現代になって世界中で再生されまくっている。これはおそらく、フューチャーファンクなどのように日本のカルチャーと紐づけたミックスやトラックの制作、またはサンプリングの中で発見されて注目を浴びたという流れだ思う。

このシティポップのブームによって、実際のレコードの購入につながった部分も一定程度あるだろう。また、この影響によって、VaundyやNulbarichのように温かくてローファイ感のある雰囲気を持ったアーティストも注目されるようになっている。日本のみならず、アナログサウンドが世界中の音楽シーンの1つのテーマになっているように感じる。

まとめ

レコード市場は再び盛り上がりを見せており、それは単なる懐古ではなく音楽の楽しみ方の多様性を取り戻す流れとしてあるのだと感じた。現代ではストリーミングが主流となった(またはなりつつある)のは事実だが、コロナ禍が明けた今、音楽業界が一層活気を取り戻していくであろうし、その流れでレコード熱もしばらく続いていくと思う。

ちなみに最近自分が購入したレコードはFour TetのSixteen Oceansというアルバムである。レコードから流れる音楽と対峙して飲まれていく感覚はやはり心地よい。

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